SNS誹謗中傷と向き合う ― 本人訴訟と対抗手段の記録(実体験記)

第1回:少額訴訟で再び損害賠償が認められました(プロローグ)
― なぜ誹謗中傷は止まり始めたのか本人訴訟で対応
刑事・民事・行政を併用 
SNSの集団心理で誹謗中傷は拡大
加害者は「普通の人」
体験のみを記録として公開
泣き寝入りしない 加害者にならない
小笠原理恵 2026.03.26
誰でも
神戸地方裁判所 著者撮影

神戸地方裁判所 著者撮影

神戸簡易裁判所で誹謗中傷に関する和解が成立。誹謗中傷は実際に減少。

22026年3月25日、神戸簡易裁判所において、現職自衛隊員による誹謗中傷に関する損害賠償請求(少額訴訟)の審理が行われ、和解が成立し、私の請求は認められた。本稿は、この問題に対して私が実際に取ってきた対応を記録として残すシリーズの第1回である。第2回以降は、具体的な手続きや実務的内容を含むため、サポートメンバー限定で公開する。

それでも私は書き続ける! 現役自衛官からのネットリンチ|小笠原理恵【2025年12月号】

それでも私は書き続ける! 現役自衛官からのネットリンチ|小笠原理恵【2025年12月号】


昨年、私は現職自衛隊員および自衛隊関係者から、SNS上で集中的な中傷を受けた。私はこれまで10年以上、緊急出動のある自衛隊員の官舎改善を求める請願を行い、現職隊員の生活面の問題を記事化し、国会議員に伝えて改善を求めてきた。しかし一部の隊員からは、「自衛隊をバカにしている」「現職隊員は我慢できる。黙れ」といった反発が常につきまとっていた。自衛隊の待遇改善の敵は、自衛隊の中にもあったのである。


ネット上では、発言が切り取られ、事実誤認や他人の発言が私のものとして扱われ、怒りが増幅されていく。その過程についても今後説明する予定だが、本稿で扱う核心は、そうした不法行為に巻き込まれたとき、個人がどのように対抗できるのかという点にある。
この体験を、記録として共有したい。(事件については上記の月刊Hanada12月号の記事で概略がわかります。)


私自身、この誹謗中傷により心身に不調をきたし、治療を要する状態となった。好調だった書籍も第二版で売れ行きが止まり、Xではフォロワーから「投稿をシェアすると自衛隊関係者から攻撃的な反応が来て怖い」「自衛隊から離れてほしい」「自衛隊は危ないよ」といった声が寄せられた。攻撃は私だけでなく、フォロワーや会員、署名協力者にまで及び、「自衛隊はお前たちを嫌っている」「自衛隊をバカにするな」「あんたたちに自衛隊は助けてほしくない」「戦車でばらばらにしたろうやないか」「TNT爆弾でぶっ飛ばすのが適当」などの言葉が浴びせられた。周囲まで萎縮させる集団攻撃だった。


自衛隊では、週に1人以上のペースで自殺者が出ている。このとき私は、なぜそれほど多くの隊員が自殺に追い込まれるのか、その背景の一端を見たように感じた。閉鎖的な集団生活の中で、このような人格攻撃が続けば、人は逃げ場を失い、追い込まれていく。


会員の安全にも不安が生じ、自衛官を守る会は休会した。緊急出動のある自衛隊員の官舎の改善を求める請願も2025年度は行わず、会員の安全を優先することとした。「自衛隊からは離れてほしい」という声もあり、自衛官を守る会は解散、請願もこれで終了することとなった。


ネット上の名誉毀損に関する損害賠償額は、一般に多くの人が想像するよりかなり低い。弁護士費用とのバランスを考えると、依頼が現実的でない例も多い。私もまさにその状況にあり、結果として本人訴訟を選択した。司法手続きについて学び、時間のあるときに一件ずつ本人訴訟を提起している。

奈良地方裁判所

奈良地方裁判所

弁護士なしの本人訴訟に踏み込んだ理由


「自分の裁判なら自分でやればいいよ。わたしもそうした。」というジャーナリストの友人の言葉に勇気づけられた。かなり面倒な作業だったが、本人訴訟をやり遂げることができた。
そのうえで、刑事告訴、人権侵害申立、防衛監察への申立、陸幕や師団への申入れ、国会議員や防衛大臣への働きかけなど、複数の手段を並行して講じた。


自衛隊には「品位を保つ義務」があるため、SNS上の言動に関する再教育が行われ、当該隊員への調査も開始された。手続き開始から約1年が経過した現在、なお一部の元自衛隊員による中傷は残るものの、現職自衛隊員による攻撃は大きく減少した。


しかし、多くの被害者は泣き寝入りに追い込まれる。深刻な場合には精神の均衡を失い、命に関わる事態に至ることもある。
実際、「この投稿は名誉を毀損しているため削除してほしい」とSNS上で求めても、加害側が行動を改めることはほとんどない。むしろ反応を面白がられ、炎上が拡大する場合も多い。彼らは反論を聞かない。


経験上、有効に機能したのは、刑事手続および民事手続、さらに職業上の義務や組織内規に基づく対応であった。
私の裁判は現在も継続中であるが、一定数の加害行為を抑止できたという手応えがある。だからこそ、この過程を記録として残し、順を追って公開していきたい。


匿名の陰に隠れた集団による言葉の暴力に、どのように対処するのか。これを知る人が増えれば、ネット空間は少なくとも今より安全に近づくはずである。

ネット誹謗中傷加害者の正体は普通の人だった。(人を悪に変えるネットの闇)

私に対して誹謗中傷を行っていた現職自衛隊員とは、一度も面識がなかった。法廷で初めてその姿を確認した。前回の少額訴訟で和解した別の現職自衛隊員のときも、今回の被告についても、対面した印象は「本来は真面目で、仲間内では良い人であろう人物」というものだった。


審理の中で印象的だったのは、裁判官および司法委員が賠償額の減額に言及した場面で、被告本人が「訴状の請求を認めている」「減額を求めるつもりはない」と自ら強く述べていたことである。この様子から、被告は本来、一定の倫理観を持った人物である可能性が高いと感じた。


SNS上では、「特定の人物を攻撃することが正しい」という空気が形成されると、その中で誹謗中傷に加担してしまう構造がある。事実と異なる投稿であっても、「多くの人が批判している」という状況が生まれると、それだけで正当化され、事実確認は行われなくなる。
「これだけ批判されているのだから、この人は悪い人物に違いない」「悪人であれば攻撃してよい」という認識が生まれ、誹謗中傷が“正義”として扱われる。

しかし、どのような経緯であっても、行為の責任は免れない。審理は短時間で終結し、和解成立後、被告は静かに裁判所を去った。

加害者にならないために、泣き寝入りしない被害者となるために

どのような事案であっても、まず事実確認を行うことは最低限必要である。
たとえ相手の発言に問題があり、強い不快感や怒りを覚えたとしても、SNS上でいきなり罵倒する行為は慎重でなければならない。仮に自分の主張が正しかったとしても、その表現次第では不法行為と評価されるリスクがあるからだ。


一度立ち止まって考えてみてほしい。見知らぬ誰かの発言が気に入らないとしても、ブロックやミュートという手段がある。無理に関わり続ける必要はない。


SNS上の口論を戦場に選んでしまえば、事態は容易にエスカレートする。気がつけば、自分自身もまた相手に対する名誉毀損の当事者となりかねない。もともと被害を受けた側であったはずが、いつの間にか加害者の一人として扱われてしまうのである。
加害者は、相手だけで十分だ。自らその立場に入り込む必要はない。

スマートな紛争解決方法はいくつもある。

意見の相違を「口論」や「攻撃」で処理するのか、それとも制度や議論で処理するのか。
私は裁判や人権救済制度、言論で対応してきた。しかし同様の状況に置かれ、ネット上の言葉に心を砕かれ、最終的に自殺に至る人が現実に存在する。
私はSNS上のネットリンチに対して、自分が実際に取ってきた行動を、体験として記録し公開していく。訴訟相手の個人名やアカウント名は出さないが、投稿内容などは実例として提示していくつもりだ。


同じ被害に遭い、「どうすればいいのか分からない」と立ち止まる人がいる。私が不眠や吐き気、体重減少に苦しみながら訴訟資料をまとめた記録が、誰かの助けになる可能性はある。
心ない暴言や罵倒は、人の心を破壊する。日本人は礼儀正しいといわれるが、匿名の空間では残忍さが露出することがある。その言葉の先にいるのが誰かという想像力すら失われる。

非弁行為にならないように体験だけを語る

私は弁護士等の資格を有しておらず、行えるのは自らの弁護としての本人訴訟に限られる。したがって、他者に対して法律上の助言を行うことはできない。本稿で述べる内容は、あくまで私自身の体験の記録であり、特定の手法を推奨するものではない。
SNS上の名誉毀損により傷つき、失った仕事について、結果として一定の補償を得るに至った。また、裁判で損害賠償が認められたことや、関係各機関からの対応が進むにつれ、誹謗中傷は減少していった。
自らがどのように判断し、どのような行動を取り、その結果どうなったのかという体験を記録として示すこと自体は許されている。
今回の一連の出来事は一般的な事例とは言い難いが、だからこそ記録として残す意義があると考えている。
同様の問題に直面している人にとって、一つの参考となることを願っている。

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