処遇改善が「侮辱」となる組織――自衛隊内部で何が起きているのか

自衛隊の処遇改善をめぐる提言に対し、なぜ現職・元自衛隊員から強い反発や中傷が生まれるのか。背景には、「耐えることに価値を置く文化」と、外部からの指摘を拒む構造がある。本稿では、具体的な事例をもとに、改善を阻む内部要因と、その結果として生じる対立と混乱の実態を明らかにする。
小笠原理恵 2026.04.10
誰でも

待遇改善投稿に反発する自衛隊関係者の真意

こんなにひどい自衛隊生活 (Hanada新書 006) Kindle版

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2024年12月、著書『こんなにひどい自衛隊生活』を発表した直後、政界や一般読者からは「このような実態は知らなかった」「改善すべき問題だ」という声が寄せられ、書籍は発売当初から増刷となる勢いで受け止められました。実際に当時の総理にもこの書籍はわたり、処遇改善の一助になったと聞いています。

なぜ、自衛隊の待遇改善のポストで自衛隊員からの誹謗中傷が発生するのでしょうか?この事件は防衛省でも問題となり、該当の現職自衛隊員の処分が発表されました。

一般市民への“自衛隊員の処遇改善を求める投稿”に反論・攻撃… SNS上で中傷行為の陸自伊丹駐屯地の3等陸曹(40)に懲戒処分 停職40日

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小笠原理恵|安全保障ジャーナリスト
@RieOgaWEB
一般市民として自衛隊員の処遇改善を訴えた件で、

SNS上で中傷行為を行った陸自隊員に対し、懲戒処分が出ました。

この「一般市民」は私、小笠原理恵です。



防衛監察への通報、刑事・民事手続を経て、

こうした行為は段階的に縮小してきました。

今回、行政処分が出たことで一つの区切りです。
2026/04/08 19:12
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なぜ、一般市民による待遇改善の提言に対して反撃が起きるのか。

たとえば、不衛生なベッドマットの問題を記事化し、画像とともに発信した結果、その実態が社会に共有され、防衛予算の中で生活環境改善のための予算がつきました。ベッドマットやシーツなど、隊舎の生活環境は一斉に更新されています。

しかし彼らにとっては、たとえ改善につながったとしても、一時的にでも自衛隊の劣悪な環境を外部に示した行為は、「裏切り」であり「組織への侮辱」と受け止められ、「報復の対象とみなすような反応が一部に見られます。」となるようです。

この防衛省の懲戒処分の記事をうけ、自衛隊関係者から防衛省に通報し、自衛隊員を停職に追い込んだ私に対して「仇を討つ」といった投稿まで出ています。このような強い攻撃性に接し、強い危機感を抱くようになりました。自衛官守る会は解散し、自衛隊募集相談員も辞任しました。それでも、現在も攻撃的な投稿は確認されています。

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具体的な例を挙げます。自衛官守る会の令和5年の国会議員との情報交換会の動画があります。ここで元自衛隊員であった会員から「当直・警衛・待機・残留手当」についての問題提起がありました。

これもあってこの問題が改善されましたとポストすると「お前の手柄ではない」「嘘をつくな」「自衛隊を食い物にしている」「クソババア」という攻撃的な投稿が現職自衛隊員・元自衛隊員・即応自衛隊員などから大量に投稿されていました。このようなことが繰り返されてきたのです。

刑事告訴、民事告訴を経てそのようなポストをする人は減りましたが確実にまだいます。防衛省はこのような自衛隊の品位を保つ義務に違反している隊員に対して、開示請求等に対処する権限も予算もないそうです。

先日、中国大使館に不法侵入した現職自衛隊員がいましたが、このような事例がふえることは自衛隊の信頼を大きく損なうだけでなく、国民を守る組織である自衛隊が市民に牙をむくときそれに対処する組織がどこにもないことが恐ろしいと考えます。

自衛隊は誠実な隊員が多い組織です。だから、処分も調査も行われ、裁判にもご協力いただきました。しかし、今もつづく報復予告。こうした行動が放置されれば信頼は損なわれます。課題はまだ終わっていません。

自衛隊の処遇改善が自衛隊員にとって侮辱となる理由

自衛隊の処遇改善投稿に対する反撃という記事に違和感を持った人もいるでしょう。しかし、これこそが自衛隊の処遇改善が進まない本質です。その背景には、自衛隊特有の文化があります。

昭和の時代、企業の寮や職場環境は『蟹工船』の例にもあるように、外部から問題提起されることで改善されてきました。他の職場では、劣悪な環境が明るみに出ても「職場を侮辱するな」という反発は一般的ではありません。

しかし自衛隊では、「戦場などの過酷な環境に耐えることが美徳」として長く教育されてきました。そのため、耐えること自体に価値を見出してきた人々にとって、外部からの指摘は「理解のない介入」と映ります。

さらに、劣悪な環境に耐えて定年まで勤務してきた元自衛官から見れば、「自分たちは耐えてきたのに、なぜ今の隊員だけが改善されるのか」という不公平感も生まれ、そこからの反発も発生します。

このような構造の中で、待遇改善の提言に対して攻撃が向けられる現象はこれまでも繰り返されてきました。私自身、約10年にわたり活動する中で、待遇改善の最大の抵抗は外部ではなく、組織内部にあると理解してきました。

自衛隊応募者の激減と口封じ

ただし、これまでは私個人に対して直接的な攻撃がここまで顕在化することはありませんでした。

実際、待遇改善を推進しようと頑張っている国会議員に対し、「処遇改善してほしいと内部告発する自衛隊員はいたのか?それは許せない。名前を言え、私が注意する」と強く迫る現職自衛官(2佐)も存在しました。こうした強い反発で処遇改善に積極的だったその新人議員は、「待遇改善に踏み込むことは自衛隊への敬意を欠くのではないか」と考え、関与を避ける判断をした事例もあります。

つまり、本当に困っている現場の自衛官たちと、それを不要とする一部の現場側との対立。この対立構造はこれまでも続いてきたものです。

しかし昨年以降、状況はさらに深刻化しました。自衛隊員への応募者数が激減したことで、募集広報官から見れば職場環境問題を公にすればさらに応募者が減る。こうした事情が、誹謗中傷を誘発する一因になったと考えられます。

「処遇改善はすでに終わった。おまえは自衛隊募集を悪化させていることを理解できないのか。おまえとの付き合いは一切断たせていただく」と激高する将官もいました。

しかし、処遇改善は一度行えば終わるものではありません。仮にすべての生活環境が一新され、修理が終わり、誰もがうらやむ報酬額となったとしても、装備や施設は更新を続けなければ必ず老朽化します。自衛隊の隊舎も、最初は新築だったはずです。それが更新されなかったからこそ、現在の状況があるのではないでしょうか。

小笠原理恵への誹謗中傷投稿まとめ 個人が特定されないように画像には黒塗り加工してあります。

小笠原理恵への誹謗中傷投稿まとめ 個人が特定されないように画像には黒塗り加工してあります。

そのような中で、「戦車でばらばらにする」「射撃の的にして全弾命中させる」といった、脅迫に近い投稿も現れるようになりました。これにより恐怖を感じた女性会員たちは「命の危険を感じる」として活動継続を断念し、結果として自衛官守る会は解散に至りました。

防衛省に通報した私を許せず、自衛隊員を停職に追い込んだ私に仇討ちをすると言っている関係者がいますが、防衛省への通報もそんなに簡単ではありませんでした。具体的にどのような形で通報することが必要なのかはまた別の記事で書きます。
防衛省側は、品位を保つ義務への違反について停職40日という非常に重い行政罰を課しましたが、それが反省につながる組織となればいいですが、報復につながっていくというのは恐ろしいことですね。

自衛隊の募集相談員を引き受け、少数ですが、実績もありましたが、自衛隊と高校生を結び付けてしまったことが果たしてよかったのか?平穏に勤務できる環境が守られることを、強く願っています。

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こちらの月刊HanadaにSNSネットリンチの内容については詳しく書きました。
ぜひご一読ください。このリンクから記事だけ購読できます。

現職自衛隊員を含むSNSネットリンチについて書いた記事

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