一面識もない誰かをネット中傷するリスク(本人訴訟体験)

自衛隊の処遇改善をめぐる議論の中で、SNS上では事実と異なる情報や切り取りによる誤解が拡散され、個人への攻撃が激化する現象が見られた。匿名性と同調圧力のもとで、なぜ見知らぬ相手への中傷が正当化されていくのか。本稿では、その構造と背景を具体例から整理する。
小笠原理恵 2026.04.22
誰でも

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貴方のSNS中傷投稿は大丈夫?

「貢献どころか自衛隊の足を引っ張っている存在ですから、勘違いしないで」と現職隊員は中傷したが、その彼と関わりの深い兵庫県の自衛隊地域本部において、私は10年以上、自衛隊募集相談員に委嘱されていた。

三田市長および地本長による委嘱式に出席し、当該地域の広報担当とも連携してきた経緯がある。実際に入隊につながった事例も、少数ながら存在する。

それにもかかわらず、一面識もない現職自衛隊員――しかも、私を委嘱していた地域本部の管轄の隊員から、「貢献どころか足を引っ張っている存在」と断定される。このような発信がなされる背景には、ネット上の憶測や、誰かによって作られた「虚像」がある。

貢献どころか自衛隊の足を引っ張っている存在ですから、勘違いしないでと中傷

貢献どころか自衛隊の足を引っ張っている存在ですから、勘違いしないでと中傷

ネットの流言で他人の怒りに同調するリスク

見知らぬ相手に対して、断定的な評価を発信することのリスクは大きい。事実関係を確認せず、ネット情報をもとに人格評価を下すことはその人物への名誉棄損を広げることとなる。

私の場合、この中傷が契機となり、任期途中で募集相談員を辞任するに至った。一方では自衛隊に協力を求められ、他方では侮辱される。この状況では、その役割を継続することは困難だった。

このような侮辱を受け、自衛隊員からの被害者である立場で「自衛隊に入隊してください」と誰かに勧めることは、良心に照らしてできなくなった。これは致し方ないことだと思う。

こうした誤認に基づく攻撃は、SNSでは拡散していく。誰かが作り上げた事実誤認は、さらに切り取りや悪意の憶測によって増幅され、攻撃対象の「虚像」が形成されていく。

私への誹謗中傷の多くは、一部の言葉を切り取り、本来とは異なる意味に書き換えたうえで攻撃する、いわゆるストローマン論法によるものだった。

また、フォロワーの発言を私自身の発言であるかのように歪曲し、「自衛官守る会の主要メンバーがこのように発言した」と、全く無関係な人物の投稿を会員の発言のように作り替える動きも見られた。そこにさらに解釈が付け加えられ、「攻撃してよい人物像」が形成されていく。

彼らは発言の真偽を検証しない。「悪人である」という前提が共有されると、その前提を補強する情報のみが選択され、より過激な表現が許容されていく。

無関係な第三者にも誹謗中傷は広がる。

やがて、無関係なフォロワーにも攻撃は及んだ。根拠もなく「日本人ではない」「死刑にしたい」といった発言が現れ、通常の社会規範から逸脱した言動が集団の中で強化されていく。

この段階になると、本来は一定の理性を持つ人間であっても、集団の中で判断基準を変えてしまう。「皆が怒っているのだから、自分も攻撃してよい」という認識が共有される。

匿名性と同調圧力の中で、「攻撃すること」が正当化される構造が形成される。

「自衛隊員が怒っているのに謝罪しないのか」
「自衛隊員をブロックしていいと思っているのか」
「自衛隊の待遇改善を言いながら、隊員の質問を無視していいのか」

こうした言葉とともに、「自衛隊員」という立場を根拠に高圧的に振る舞う人々も現れた。

一度この構造の中に入ると、事実確認は行われなくなる。集団内では「自衛隊員をブロックするのは悪人」といった独自のルールが共有され、「#小笠原理恵は謝罪しろ」といったハッシュタグが拡散する。

SNS上のネットリンチには、数十人から100人規模の自衛隊関係者を名乗る人々が参加していた。また、この攻撃はあたかも「自衛隊」という組織が関与しているかのように装われ、そのことがさらに攻撃に権威を与えていた。

自衛隊という組織名が中傷グループに権威と拡散力を

だからこそ、私は防衛監察に対し、これが自衛隊の意思として行われたものなのか、あるいは課業時間内に広報官が関与していたのかを確認した。

もし仮に、組織として関与していた場合、問題は個人の責任ではなく国家賠償の対象となるためである。

しかし、防衛省はこれを否定し、当該行為は「品位を保つ義務」に違反する可能性があるとして調査を開始した。当該アカウントは削除され、国家賠償請求の可能性は消えた。すでに民事ではいくつかの損害賠償が認められ、和解も成立しているが、必要な裁判は継続している。

ここで重要なのは、「組織の名前」や「立場」が持ち込まれることで、攻撃が一個人のものを超え、より強い圧力として作用する点である。

誹謗中傷グループの中では、集団内での評価が行動の基準となり、より過激な言動へと進んでいく。「皆がやっているから自分もやる」という同調が、独自の価値観を形成していく。

問題は、この事件の過激さそのものではない。なぜこのような歪曲と攻撃が、匿名のSNS上で繰り返されるのか、その仕組みにある。

一般社会では、面識のない相手を罵倒するような行為はほとんど見られない。しかしSNSではそれが頻繁に発生し、その渦中にいる人間は、自らが異常な状態にあることに気づかない。

この構造は、単なるSNS上のトラブルにとどまらない。他人の怒りに同調し、集団の中で攻撃している間は「自分は安全だ」と感じているのかもしれない。しかし実際には、責任は個別に問われる。

なぜ問題提起が「敵」とみなされるのか。なぜ改善を求める声が攻撃対象となるのか。ここに強固な理由がある。自衛隊の元高官はこの問題をどう捉えているのか。この例をみればわかるかと思う。

この点については、次で整理する。

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