10式戦車事故の真相――「砲弾破裂」は誤解か 爆燃の可能性と構造問題
まず、亡くなられた隊員の方に心より哀悼の意を表するとともに、負傷された隊員の一日も早い回復を願います。
陸上自衛隊10式戦車事故の概要
大分県の陸上自衛隊日出生台演習場で発生した10式戦車の事故は、現役隊員や関係者の間で「前代未聞」と受け止められている。実弾射撃訓練中、戦車内部で砲弾が「破裂」し、搭乗していた隊員4人が死傷するという極めて異例の事態となった。
事故当時、戦車には戦車長、砲手、安全係の3名が砲塔内に位置し、操縦手は車体前方の操縦席にいた。死亡した3名はいずれも砲塔内にいた隊員であり、重傷を負った操縦手は砲塔から一定の距離を置いた位置にいたとされる。この配置関係からも、事故が砲塔内で発生したことはほぼ間違いないとみられている。
陸上幕僚長は記者会見で「砲塔内で弾薬が破裂した」との報告を受けていることを明らかにしつつも、「私の経験ではそのような事例は聞いたことがない」と述べた。戦車部隊経験者の間でも同様の認識が共有されており、今回の事故が通常想定される範囲を超えていることを示している。
使用されていたのは、120ミリ対戦車砲弾である。10式戦車は自動装填装置を備えており、砲弾は人の手を介さず機械的に装填される。また、発射時の爆風を遮断する安全機構も備えられているとされ、通常の運用において戦車内部で致命的な事故が発生することは極めて考えにくい構造となっている。
現時点で原因は特定されておらず、陸上自衛隊は砲弾そのものの問題に加え、装置の不具合や人的ミスの可能性も含めて調査を進めている。事故調査委員会も設置され、製造企業の協力も得ながら検証が進められる見通しだ。
事故の衝撃は大きい。
一方で、この事故が与えた衝撃は、単に技術的な問題にとどまらない。10式戦車は、日本が誇る最新鋭の主力戦車であり、情報共有システムや高い機動性を備えた装備として導入されてきた。その内部で発生した今回の事故は、「なぜこのような事態が起きたのか」という根本的な問いを、防衛省・自衛隊全体に突きつけている。
さらに近年、自衛隊では重大事故が相次いでいる。2023年のヘリコプター墜落事故、2024年の手りゅう弾訓練事故など、訓練中の死亡事故は決して単発ではない。個別の事象として処理するのではなく、安全管理や運用の在り方そのものが問われている可能性がある。
その上で、今回の事故を考える際に避けて通れない論点がある。人員不足と運用負荷の問題である。防衛費の増加に伴い、これまで限定的だった実弾射撃訓練の機会は拡大している。一方で、現場の人員は必ずしもそれに見合って増えているとは言い難い。
整備、点検、射撃手順の遵守といった安全管理は、いずれも人的リソースに大きく依存する。訓練量が増加する中で、従来と同じ水準の整備や確認作業が維持されていたのか。あるいは、限られた人員の中で負担が増し、注意義務の履行に影響が出ていなかったのか。この点についても、冷静な検証が求められる。
今回の事故についても、「砲弾が破裂した」という説明だけでは、その実態を十分に捉えたことにはならない。むしろ、その言葉が指し示している現象の中身こそが、冷静に検証されるべきである。
では、実際に戦車の内部で何が起きていたのか。
そして、それは本当に「砲弾の破裂」だったのか。

照井資規 軍事・有事医療ジャーナリスト
元戦車大隊にいた軍事ジャーナリスト照井氏の解説
ここからは、元戦車大隊で衛生小隊長を務めた軍事ジャーナリストの照井資規氏の見解を紹介する。
今回の戦車事故については、「砲弾が爆発した」というイメージで語られることが多い。最終的な結論は今後の調査によって明らかになるべきものだが、現時点で考え得る範囲について、照井氏に説明を求めた。
結論から言えば、今回起きた現象は「爆発」ではなく、発射薬の急激な燃焼、すなわち「爆燃」であった可能性があると照井氏は指摘する。
戦車砲弾のうち、いわゆる徹甲弾(AP/APFSDS)は爆発物ではない。タングステンなどで構成された弾体は、標的を運動エネルギーで貫通することを目的としており、弾そのものが内部で爆発する構造にはなっていない。
一方で、今回の報道では「120ミリ対戦車りゅう弾」という表現が用いられている。一般に「榴弾」と呼ばれる弾種には炸薬が内蔵されており、着弾時に爆発する。しかし、日本の報道では、対戦車榴弾(HEAT)と徹甲弾(AP系)が混同されることも少なくない。したがって、今回使用された弾種については、現時点で断定するのではなく、今後の検証結果を待つ必要がある。
報道に添付された事故車両とみられる戦車の画像を見る限り、砲塔後部の吹き飛びや大規模な変形は確認されていない。仮に弾薬庫内の弾薬が爆発的に誘爆していれば、構造上、砲塔後部が破壊される可能性が高い。そうした兆候が見られない以上、車内で起きた現象は、発射薬の異常燃焼、あるいは単発の弾薬に限定された事象であったと考える方が自然である。
この点を整理するために、戦車砲弾の基本的な種類を確認しておきたい。
第一に、徹甲弾(AP/APFSDS)である。これはタングステンなどの金属塊からなる弾体で、爆発は伴わず、運動エネルギーによって装甲を貫通する。
第二に、榴弾(HE)である。内部に炸薬を持ち、着弾時に爆発することで歩兵や建造物に効果を発揮する。
第三に、対戦車榴弾(HEAT)である。これは成形炸薬を用い、爆発によって生じる高温高圧の金属ジェットで装甲を貫通する弾種である。
今回の事故がこれらのどの弾種によるものなのかは、現時点では明らかではない。しかし、車両の損傷状況や構造的特徴を踏まえれば、「砲弾の爆発」と単純に理解することには慎重であるべきだろう。
むしろ、発射薬の急激な燃焼、すなわち爆燃によって説明される可能性は、依然として残されている。
追加更新:その後の情報で どうやら 120mmTKG対戦車榴弾(HEAT-MP JM12A1)という最近ライセンス生産しているHEAT弾ではないかという話がでてきた。HEAT弾の周囲を鋼の球や切れ目を入れた鋼線で巻いたような形状をしている。もし、これであれば、対戦車多目的榴弾で破片が飛び散る弾頭となる。この場合は、内部の乗員は即死となることが理解できる。
21歳の女性操縦手は顔面熱傷なので、やはり発射薬の燃焼などによるものだろう。
自動装填装置と薬莢
現代の戦車、とりわけ陸上自衛隊の10式戦車は自動装填装置を備えている。砲弾は人の手で扱われるのではなく、砲塔後部の弾薬庫から機械的に一発ずつ装填される。このため、同時に複数の弾薬が戦闘室内に露出する構造ではない。
また、使用される薬莢は「燃焼式薬莢」と呼ばれるもので、底部を除きほとんどが燃え尽きる素材でできている。発射時に残渣を残さず、車内に薬莢が散乱することを防ぐための設計だが、その分、極めて燃えやすい性質を持つ。
「自動装填装置なので一発ずつしか砲身に送り込まれないんですよ。 なので、燃え上がったのは一発だけです。 もし、積んでる弾薬すべてに火がついたとしたら、バッスル式の砲塔の後ろが吹き飛んでいます。今回は砲塔が吹っ飛んでないので、戦闘室内で一発だけ発射薬が急激に燃焼したと考えられます。まず、砲弾自体は鉄鋼弾なんで爆発するはずがない。 そうしますと考えられるのは発射薬が急激に燃焼したということだけなんですね。」
この発射薬が引き起こした爆燃こそが、今回の事故の実態である可能性が高いと照井資規氏は指摘する。これはこの後の検証で明らかになるだろうが、爆燃によって説明できる可能性は高い。
「爆燃となると、一気に熱が戦闘室内に入り込む、花火が破裂するようなものです。いわゆる正規の戦車服を着てれば400度で20秒間は耐えられますが、酸素がなくなり、重度の火傷となるでしょう。砲身が1500度になるわけですから、それに近い高温になった可能性があります。」
戦闘室内の安全構造上の問題
本来、戦車砲は完全閉鎖が成立しない限り発射されない構造になっており、戦闘室内で発射薬が燃焼すること自体が想定されていない。つまり今回の事故は、「起きない前提」で設計された安全構造の手前で、何らかの異常が発生したことを意味する。
考えられるのは、装填過程における異常、あるいは整備・運用上の問題である。
とりわけ重要なのは、整備状態と運用負荷の関係だ。近年の訓練増加と人員状況の中で、安全管理がどのように維持されていたのか。この点を避けて、今回の事故の本質に迫ることはできない。
起きないはずの事故は、なぜ起きたのか。
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