日本保守党「37の重点政策」を実行したら何が起きるのか

この記事は全体公開です。日本保守党の重点政策について、賛否ではなく「実際に法律として動かせるのか」という視点から検証しました。今後も政党政策や安全保障、社会制度を具体的な数字と制度から追っていきます。継続した取材・検証のため、ぜひ読者登録、サポートメンバー登録で応援していただければ幸いです。
小笠原理恵 2026.08.11
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「移民を規制」「外国資本を禁止」――その先の制度設計が見えない

日本保守党が8月6日、重点政策を改訂した。

「日本の国体、伝統文化を守る」「減税を通じた経済活性化」「安全保障」「外交」「移民政策の是正」「エネルギーと産業政策」など8分野、37項目が並んでいる。

この中には、問題意識そのものには賛同できるものもある。しかし、あまりに簡略化されすぎており、現在の法律や制度がどうなっているのか、その政策を実施すればどのような影響が出るのか、さらに減税するのであれば、減った税収をどう補填するのかといった説明がほとんどない。だからこそ、各項目を読むたびに疑問が浮かんでくる。

一般に政党の政策集には、まず現状分析があり、現行法や制度のどこに問題があるのかが示され、その上で具体的な政策提案が置かれる。提案に至った理由や、現行制度のどの部分をどのように改めるのかまで細かく記されているものもある。

ところが、日本保守党の今回の重点政策は、ほぼ項目だけが並んでいる。

安全保障の強化、外国勢力による重要土地取得への規制、諜報機関整備、防衛研究への助成、過度な再生可能エネルギー依存の見直しなどは、十分に議論されるべきテーマである。

しかし、国政政党の政策を見る場合、「方向性に賛成できるか」だけでは足りない。

その政策を法律にしたら何が起きるのか。誰を対象にするのか。何人減らすのか。何兆円必要なのか。既存制度とどう接続するのか。

そこまで考えて初めて、政策として評価することができる。

今回の37項目をその視点から読むと、いくつもの素朴な疑問が浮かんでくる。

「移民の総数・相手国を規制」――では257万人の代わりを誰が担うのか

移民政策の項目には、「移民のコストを算出し、総数・相手国を規制する」とある。

しかし、「総数を規制する」と言う以上、まず現在どれだけの外国人が日本の労働市場を支えているのかを見なければならない。

AIで生成、出店 厚生労働省 外国人雇用状況より

AIで生成、出店 厚生労働省 外国人雇用状況より

厚生労働省によると、2025年10月末の外国人労働者数は257万1,037人で過去最多となった。前年比では26万8,450人、11.7%増えている。外国人を雇用する事業所も37万1,215事業所に達した。

2025年度平均の日本の就業者数は6,829万人である。単純計算すれば、外国人労働者は就業者全体の約3.8%を占める。

「たった3.8%」と見ることもできる。

しかし現場に落とすと印象は変わる。

外国人労働者の24.7%は製造業で働いている。人数に直せば約63万5,000人だ。外国人を雇用する事業所の63.1%は従業員30人未満の小規模事業所である。

つまり外国人労働者は、大企業だけの特殊な労働力ではない。地方の工場、飲食、小売、建設、介護を含む、日本の中小企業の現場にすでに組み込まれている。

国籍別ではベトナム60万5,906人、中国43万1,949人、フィリピン26万869人。この3か国だけで約130万人になる。

ここで「相手国を規制する」とは、具体的には何を意味するのだろう。

たとえば、

ベトナム人は年間何万人まで。
中国人は何万人まで。
インドネシア人は何万人まで。

という国籍別枠を作るのだろうか。

あるいは、職種や技能ではなく国籍によって受け入れ人数を決めるのだろうか。

しかも日本には「移民」という単一の在留資格があるわけではない。特定技能、技能実習、技術・人文知識・国際業務、経営・管理、永住者、定住者、日本人の配偶者等では制度も目的も全く違う。

だから「移民を減らす」というだけでは政策にならない。

誰を、どの在留資格で、何人まで減らすのか。

さらに重要なのは、その後だ。

仮に外国人労働者を50万人減らしたら、その50万人分の仕事を誰が担うのか。

日本人の賃金を上げて人を集めるのか。省人化投資を進めるのか。女性や高齢者の就業をさらに増やすのか。それでも人が集まらない企業については、廃業・退出を受け入れるのか。

外国人労働者を減らす政策には、必ず「代わりに誰が働くのか」という政策が必要になる。

外国人の健康保険・年金を「別立て」にする巨大改正

24番には、

「健康保険法・年金法改正(外国人の健康保険・年金を別立てに)」

とある。

これも一見すると単純そうに見える。しかし実際には、極めて大きな社会保障制度改革になる。日本企業に雇用されている外国人社員は、日本人社員と同じ会社で働き、給与から健康保険料や厚生年金保険料を支払っている。

これを国籍だけで別制度にするなら、企業の給与計算、健康保険組合、厚生年金記録、転職時の資格移管、永住、帰化、帰国時の手続き、各国との社会保障協定まで整理し直さなければならない。

仮に「外国人健康保険」を新設するなら、

誰が保険者になるのか。
保険料率はいくらなのか。
給付範囲は日本人と同じなのか。
高額医療費はどう扱うのか。
制度が赤字になった場合、誰が負担するのか。

ここまで決めなければ制度は動かない。

外国人による不正利用対策を強化する話と、外国籍だけ社会保険制度を丸ごと分離する話は、規模が全く違う。こんなすさまじい改正、組織編制、そして、多額の費用のかかる話をなぜ、外国人のために別設計でつくらないといけないのか。疑問が残る。

「外国資本禁止」――ENEOSの株主から整理するのか

有価証券報告書ベースで調査、INPEXだけ2025年度データ それをもとにAIで画像生成

有価証券報告書ベースで調査、INPEXだけ2025年度データ それをもとにAIで画像生成

そして私が特に気になったのが、26番だ。「エネルギー分野への外国資本の参入を禁止する法整備」と明記されている。

おそらく問題意識としては、中国などの外国資本によって太陽光発電施設や重要インフラ・水源地などが支配されることを防ぎたい、ということなのだろう。

それなら理解できる。

しかし、「外国資本による重要インフラの支配を規制する」と「エネルギー分野への外国資本参入を禁止する」は全く違う。

後者を文字どおり適用すると、話は太陽光発電だけでは終わらない。

石油、LNG、発電、送電、蓄電池、資源開発、商社、金融まで含まれる。日本のエネルギー産業は国際資本・国際取引と切り離して存在しているわけではない。日本はそもそも資源輸入国である。

原油なら、

産油国

原油売買

外航タンカー

船舶保険・再保険

銀行・金融

日本の港湾

製油所

油槽所

内航タンカー・タンクローリー

ガソリンスタンド・空港・工場・発電所

という長い国際的サプライチェーンで動く。このどこからが「外国資本参入」なのだろう。外国企業が日本企業の株式を持つことなのか。外国企業がLNG基地や製油所に出資することなのか。

外国船主のタンカーを利用することなのか。だいたい日本の外航船は税金を安くするためにパナマ船籍にしている場合がある。外国企業との共同資源開発も対象なのか。ここを書かなければ、現実には線が引けない。

今回の問題を象徴するのがENEOSである。日本最大級のエネルギー企業でさえ、外国法人・外国投資家が株主として入っている。もし「外国資本参入禁止」を株式保有まで含めるなら、

まずENEOSの外国人株主をどうするのかという話から始めなければならなくなる。

輸入に頼る日本のエネルギー産業で外国との共同投資は当たり前のことだ。

「重要インフラを外国勢力に支配させない」政策なら十分成立する。

特定国の政府系企業による買収を厳しく審査する。製油所、LNG基地、送電網、原子力関連施設などについて一定比率以上の出資を規制する。経営支配権取得を禁止する。このように対象施設、対象国、持株比率、経営支配の有無を定義すれば政策になる。

しかし、

「エネルギー分野への外国資本の参入を禁止」という一文では、範囲があまりにも広い。

減税は並ぶ。しかし支出も増える

財政面でも同じ問題がある。日本保守党の重点政策に「地方税(住民税)減税を推進」とある。

重点政策では、

食料品、酒類を含む消費税率を恒久的に0%。
所得税減税。
住民税減税。

を掲げる一方、防衛研究への助成、防衛産業への政府投資、出産育児一時金の引き上げなど、支出増につながる政策も並ぶ。

減税は庶民にはうれしい。しかし、減税で失った財源でまかなってきた行政サービスをどうするのだろう。しかも「恒久的に0%」なら、恒久財源が必要だ。

重点政策には「省庁、事業、海外拠出金などを大胆に整理し減税財源に」とある。問題は、その「大胆に整理」で何兆円削減できるのかである。同じようなことを民主党政府がやろうとしたその結果をわすれているのだろうか。

消費税を減らす。
所得税を減らす。
住民税を減らす。
一方で防衛投資を増やす。
少子化対策も増やす。

ならば、その差額を数字で示す必要がある。

特に住民税は地方自治体の重要な自主財源である。東京都では76.2% 6兆8544億円ある。「全国で減税を推進」するなら、その穴を国が補填するのか、地方自治体に歳出削減を求めるのか、自治体ごとの判断に任せるのか。

国政政党が地方税減税を政策に掲げる以上、地方行政サービスとの関係まで説明する必要がある。

自衛隊による邦人救助――「今できない何」を可能にするのか

安全保障政策にも同じことが言える。日本保守党は自衛隊法を改正し、「在外邦人、日本協力者の救助を可能にする」としている。

しかし現在も自衛隊による在外邦人等の輸送制度は存在する。

したがって問題は、現在できない何を、新たにできるようにするのか である。

戦闘地域に入り、武装勢力を排除しながら人質を奪還する救出作戦まで想定するのか。

そこまで行うなら、武器使用基準、ROE、相手国政府の同意、負傷者への医療、拘束者の扱いなど、自衛隊法だけでは済まない論点が出てくる。

同じ重点政策では憲法9条2項削除も掲げている。

これは自衛隊の名称変更程度の話ではない。

9条2項を削除するなら、日本の武力行使法制そのものをどのように再構築するのかという、極めて大きな憲法政策になる。

安全保障を重視する政党だからこそ、ここはキャッチコピーではなく具体的な制度設計を示してほしい。

一番足りないのは「数字」ではないか

37項目を通して読んで、最も気になるのはここだった。

数字がほとんどない。

移民は何人までなのか。

どの国から何人まで受け入れるのか。

消費税ゼロによる減収はいくらなのか。

歳出削減はいくらなのか。

防衛産業へいくら投資するのか。

外国資本は何%から規制するのか。

原発、LNG、石炭、再エネをそれぞれ何%にするのか。そして、外国資本の参入を全面的に禁止した場合、日本はどのような形でエネルギーを確保するのか。現在のエネルギー企業は、今の事業形態を維持できなくなる可能性もある。

仮に日本独自のエネルギー開発を急ぐとしても、実用化には時間がかかる。その移行期間をどう乗り切るのか。国民生活や産業に必要なエネルギーを、何によって確保するのかという説明も必要だ。

国会議員歳費を「一般国民の給与並み」にするとしても、平均なのか中央値なのか、その基準が分からない。

さらに歳費を大幅に引き下げれば、資産を持つ人や別の収入源を持つ人でなければ政治家を続けにくくなる可能性がある。選挙には資金も必要だ。結果として、むしろ「お金のある人しか国会議員になれない」政治を作ることにならないのか。この点も疑問が残る。

「政党交付金を諸外国の例に鑑み半額程度」とするなら、どの国のどの制度を参考にしたのか。

理念を示す段階なら、抽象的な言葉でもよい。

しかし日本保守党はすでに国政政党である。

政策とは、支持者に「そうだ」と言ってもらうための標語ではない。

法律になった翌日から、行政機関、企業、自治体、市民が実際に動ける仕組みでなければならない。

今回の37項目には、問題意識として理解できるものが少なくない。

だからこそ私は知りたい。

外国人を減らした後、誰が働くのか。
外国資本を禁止した後、日本のエネルギー産業をどう動かすのか。
再エネを減らした後、何で発電するのか。
税金を減らした後、何を削って財源を作るのか。

「何をやめるか」の次にある、

「では、その後の日本をどう動かすのか」

まで示されて初めて、37項目は「重点政策」として評価できるのではないだろうか。

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