イラン情勢とナフサ・日本の生活への影響
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中東情勢が日本の生活に与え始めた影響
中東情勢の緊張が続く中、日本国内ではエネルギー価格の上昇だけでなく、生活物資への影響が徐々に広がり始めている。
石油が滞ることで発生する問題と聞くと、私たちはまず「ガソリンがなくなり、車や船舶の輸送が止まるのではないか」と想像する。しかし、原油の供給が滞る影響は、それだけにとどまらない。実際には、はるかに広い範囲に及ぶのだ。
私たちは、石油由来のものがどれほど日常の中に入り込んでいるのか、あまり意識してこなかった。だが今、石油の滞りによって、目に見えない膨大な「石油化学製品」を起点とした波及が、静かに始まっている。
その中心にあるのがナフサだ。ナフサは原油から精製される基礎原料であり、プラスチック、ゴム、接着剤、塗料など、ほぼすべての工業製品の出発点となる。
日本はこのナフサを中東からの輸入に大きく依存しており、ホルムズ海峡の不安定化は、そのまま供給リスクに直結する。
ナフサ不足が引き起こす「見えにくい不足」
すでに影響は複数の分野に現れている。
石油化学製品では原料不足により供給遅延や価格上昇が見られ、包装材や日用品、製造業全体のコストが上がり始めた。価格だけではなく、その商品の出荷が難しくなる場合もある。
ナフサで食品の出荷が滞るとは想像できなかったが、バナナやキウイ、アボカドといった輸入果実は、エチレンガスによる熟成工程を経て店頭に並ぶ。この熟成に必要なガスもナフサ由来だった。供給が滞れば、食品の流通そのものが止まる可能性がある。
ある生産拠点では「商品自体の生産はできるけれど、それを梱包するときに使うガムテープの粘着剤が足らないらしく、それが出荷時に問題になっているんですよ。」このような声が聞こえてきた。主原料はそろっていても、別の物資が足らないせいで問題が起こるという一例だ。
アイスクリームやチョコレートに使われる香料も同様に化学合成に依存しており、安価な商品の供給に影響が出始めている。
医療・農業・物流へ広がる影響
影響はさらに広がっている。
医療分野では、注射器、医療用手袋、カテーテル、透析資材などがすべて石油由来であり、供給不安が直接的なリスクとなる。すでに医療用手袋の備蓄放出が決定されている。「こういうものも石油由来なの?」と驚かされる分野だ。
農業では、肥料原料である硫黄の供給減少への懸念がある。
物流面では、原油価格の上昇により海運・空輸のコストや保険料が上昇し、食品価格の押し上げ要因となっている。
もちろん、ガソリンや船舶、航空機の燃料費も大きな問題だ。政府は製品価格の高騰を抑制するため、燃料油(ガソリン、軽油、重油、灯油、航空機燃料)への支援を令和8年3月19日から開始している。現時点では一定の安定が保たれているが、不安要素の一つであることに変わりはない。
原油は燃料であると同時に、社会全体の基盤素材でもあるという現実がここにある。
兵庫県篠山市 ぬくもりの郷が原油高騰で臨時休業
原料高騰の一例だが、兵庫県篠山市にあるこんだ薬師温泉ぬくもりの郷が臨時休業となった。
温泉を温めている重油の確保がイラン情勢により難しくなったための臨時休業だ。こんだ薬師温泉ぬくもりの郷は、中東情勢の影響によるボイラー用重油の確保困難のため、3月28日から臨時休業中となった。
その後、2026年4月29日(水・祝)より営業を再開する見込みとなったが、各地の銭湯や温泉も同様の状況で苦しんでいることと思う。ゴールデンウィークの繁忙期に間に合わせるように営業再開となったが、重油の確保。燃料費の高騰の影響が見える一例だ。

ぬくもりの郷 サイトより
■時間差で襲ってくる電気・ガス料金
エネルギー価格の影響はすぐには現れない。
電気・ガス料金は過去数か月の燃料価格を基に決まるため、原油価格の上昇は時間差を伴って家計に反映される。
経済産業相は、6月頃から影響が出始める可能性を示唆した。今後、家計負担や企業コストの増加が始まるかもしれない。
政府の対応「供給は守る」という戦略
一方で政府は、供給維持を最優先に複数の対策を進めている。
まず原油の調達では、ホルムズ海峡を経由しないルートの確保を進め、5月時点で従来の約6割の供給に目途をつけたと24日発表した。
調達先も中東に加え、中央アジア、中南米、アジア太平洋へと分散している。石油資源を外国に頼る日本はもっと早くからこのエネルギーサプライチェーンの多様化を進めるべきであった。今回の高市早苗総理には大きな課題となるが、台湾有事を控えて、いずれ通らなければならない道であった。この機会に脆弱なエネルギー供給網を多重化してほしい。
また、石油備蓄の活用も重要な柱である。日本は200日を超える備蓄を有しており、これを放出することで短期的な供給不足を補う体制が整えられている。この厚みもこの機会に考えてほしい。
医療分野では、海外の日系生産拠点への原料優先供給により、透析資材などについて9月末までの供給確保が進められている。また。医療機関の在庫状況を把握をすすめ、需給の偏りを調整することで、供給の流れを調整していくシステム改革も同時進行でおこなっている。
「不足」と「価格」は別の問題
ここで重要なのは、政府が対応しているのは主に「供給量」というところだ。
備蓄や代替調達によって「物がなくなる」事態は一定程度抑えられるだろう。
しかし、原油価格そのものは世界市場で決まるため、「価格の上昇」を止めることはできない。原油価格がどう決まるのかについては、別の機会にご説明したい。
つまり今回の構造は、
供給は守れても、価格は守れない
という点にある。
今回の本質――日本の構造的な脆弱性
この問題は一時的な混乱ではない。
日本のエネルギーと産業は、原油という単一の資源に強く依存している。その構造そのものを見直す段階に来ている。
日本は多数の原子力発電所を有しながらも、その多くが再稼働せず停止したままだ。一方で、これからの時代はAIが経済を牽引し、その基盤として大量の電力を消費するデータセンターの整備が不可欠になる。
実際に米国では、小型モジュール炉(SMR)の開発と導入が進められ、日本からの投資も求められている。
では、日本はどうするのか。
国内では依然として、原油や輸入された化石燃料に大きく依存した発電構造のままでよいのか。この問いから、目を背けることはできない。
原油は燃料であると同時に、化学、医療、農業、物流など、あらゆる分野の基盤を支えている。中東情勢の緊張が長期化すれば、その影響は価格上昇にとどまらず、供給の遅延や選別的な不足という形で広がっていく可能性がある。
これは「遠い中東の問題」ではない。
日本の生活そのものに直結する問題である。
原油調達の多角化と同時に、原油に過度に依存しないエネルギー構造をどう構築するのか。
いままさに、それを現実の課題として考える時期に来ているのではないだろうか。
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