日本の潜水艦は優秀だが、戦時の問題は「撃った後」に始まる

日本の潜水艦は優秀です。ただし、平時の「見つからない」能力と、戦時に「撃った後も生き残る」能力は違います。その性能が何に強く、どこに限界があるのか。通常動力型潜水艦と原子力潜水艦を例にとり違いを、大枠で整理します。軍事ジャーナリストや専門家は、どうしても速力、排水量、魚雷の性能、電池、AIP、原子力機関といったスペックの話をしがちです。私は問題点をわかりやすく一般人向けに説明します。
小笠原理恵 2026.06.10
誰でも

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日本の潜水艦は平時には優秀だが……

かつて自衛隊の問題定義をする私に「軍事ジャーナリストでもない」「自衛隊の名誉毀損だ」といった誹謗中傷投稿を続けた自衛隊関係者がいました。彼が潜水艦に興味がないのだろうねと言っていたので、時には潜水艦の話をしようと思います。

でも、自衛隊に必要なのは、問題提起を攻撃で黙らせることではありません。装備の強みと限界を冷静に見つめ、有事に何が起きるのかを平時のうちに考えることではないでしょうか。

私はここで、細かいスペックの話を延々とするつもりはありません。軍事専門家ではない一般の人にも概略がつかめるように、潜水艦の強みと限界を大枠で整理したいと思います。

このポイントがわかれば、盲目的に「日本の潜水艦は優秀だ」と持ち上げるだけではなく、有事に備えて、欠点や制約を考え、必要な態勢を再構築することが大事だとわかるはずです。

日本の潜水艦は優秀です。

おやしお型、そうりゅう型、そしてリチウムイオン電池を搭載した新しい日本の潜水艦は、日本近海の防衛、海峡監視、待ち伏せ、警戒監視において非常に高い能力を持ちます。通常動力型潜水艦は、電池で静かに潜ることができます。

電気自動車とガソリン車の静粛性の違いは、私たちも日常で感じているはずです。もちろん自動車と潜水艦は同じではありませんが、ディーゼル機関で発電し、蓄えた電気で水中を静かに航走できることが、日本の通常動力型潜水艦の大きな特徴です。

低速で潜み、相手に見つからず、必要な時に一撃を加える。平時の監視任務や防勢的な海域防衛では、この静粛性は大きな武器となります。

潜水艦「長魚雷」の攻撃力の有効性

しかし、平時の静粛性がすばらしいという話だけでは、戦時に魚雷を撃った後の生残性は見えてきません。

有事の潜水艦戦で問われるのは、相手に見つからずに「撃てるか」だけではありません。「撃った後に生き残れるか」も極めて重要です。

静粛に潜むことで海中での位置を隠していた潜水艦も、有事には対艦ミサイル、魚雷、潜水艦発射型誘導弾などを発射することになります。それを効果的に使うことは可能でしょう。

特に、海中の「真下」からの長魚雷攻撃が有効とされるのは、横から船腹に穴を開けるだけでなく、艦全体の構造そのものに大きな損傷を与え得るからです。

ポイントはここです。

船は、水に浮く巨大な梁のような構造です。横からの爆発でも浸水は発生します。しかし、船底直下で爆発すると、爆発圧、水柱、気泡の膨張・収縮によって、船体を下から持ち上げたり、逆に支えを失わせたりします。すると船体中央部に強い曲げ応力がかかり、最悪の場合、竜骨や船体構造が折れるような深刻な損傷につながります。

映画『タイタニック』で、巨大な船体が最後に真っ二つになる場面を覚えている方も多いと思います。もちろん、あれは魚雷攻撃ではありません。しかし、巨大な船でも、支え方や力のかかり方が極端になると、船体そのものが折れることがある。そういうイメージとして、あの映画のシーンは私たちにもわかりやすいと思います。

この優れた能力のある日本の潜水艦ですが、よいことばかりではなく、問題点もみつけて改善していくことで強い軍事組織となります。誇りを傷つけられるから問題点を言うのはやめろと言われても、平時に問題点を改善しなければ有事に困るのではないかと思います。

ここで今回、ピックアップする論点はこちらです。

平時に「見つからない」能力と、戦時に「撃った後も生き残る」能力は、別のものだという話をします。

呉 潜水艦 著者撮影 そうりゅう型潜水艦

呉 潜水艦 著者撮影 そうりゅう型潜水艦

潜水艦の魚雷発射後の離脱能力

平時の潜水艦は、見つからないことが最大の価値です。

相手の艦艇や潜水艦の動きを監視し、存在を悟られずに海域にとどまります。日本のように島国で、周辺に海峡や重要な航路が多い国にとって、通常動力型潜水艦の静粛性は非常に大きな意味を持ちます。

しかし、戦時になると状況は一変します。

潜水艦も、相手の水上艦や潜水艦に向けて攻撃を行うことになります。それは、撃った瞬間から、その潜水艦の水中での位置や発射海域が推定されやすくなります。完全な隠密行動ができなくなります。

発射音、魚雷の航走音、相手のソナー、対潜哨戒機、護衛艦、ヘリ、別の潜水艦。これらが連動すれば、発射した潜水艦がいる海域は絞り込まれていきます。

つまり、戦時の潜水艦には、初弾の威力だけでなく、攻撃後の離脱能力が問われます。一発撃った後、相手艦隊の対潜攻撃を受けて撃沈されるのであれば、継続して戦闘能力を発揮することはできません。

現代の敵艦隊は、単独で動いているわけではありません。

空母であれ、強襲揚陸艦であれ、重要な水上艦であれ、通常は護衛艦、対潜ヘリ、哨戒機、潜水艦、各種センサーとともに行動します。潜水艦が魚雷を撃てば、相手はその瞬間から発射母艦の捜索に入ります。

だからこそ、攻撃圏内からの離脱能力も考えなくてはなりません。

通常動力型潜水艦の限界

通常動力型潜水艦は、静かに潜む能力に優れています。

しかし、高速で長時間、水中を移動し続ける能力には限界があります。電池航走には持続時間の制約があり、高速で動けば電力を大きく消費します。

ここは、かなり大ざっぱなたとえで考えるとわかりやすいと思います。

安全性や現実性はいったん脇に置いて、「エネルギー量」だけをイメージしてください。
電気自動車は静かに走れますが、バッテリーが減れば充電が必要です。ところが、その電気自動車の中に小さな原子力発電所のようなものが入っていて、走りながら電力を生み続けられるとしたらどうでしょうか。充電切れを気にせず、かなり果てしなく長時間走り続けることができます。

通常動力型潜水艦と原子力潜水艦の違いも、このイメージに近いものがあります。

わかりやすい説明イメージbyオガサワラリエ

低速で静かに潜むことが得意でも、攻撃後に高速で長距離を離脱する能力は、原子力潜水艦とは大きく異なります。

つまり、通常動力型潜水艦は「待ち伏せ」には強い。しかし、「撃った後に戦場を大きく移動し続ける」能力では、原子力潜水艦に及ばないということです。

これは日本の潜水艦が弱いという話ではありません。任務の性格が違うという話です。

米軍攻撃型原潜 SSN たぶん、ロサンゼルス級 横須賀 著者撮影

米軍攻撃型原潜 SSN たぶん、ロサンゼルス級 横須賀 著者撮影

原子力潜水艦の強み

原子力潜水艦は、原子炉、冷却系、各種機械装置を持つため、通常動力型潜水艦とは異なる機械的な音源を抱えています。

ただし、ここも単純に「原潜はうるさい」と言い切れる話ではありません。現代の原子力潜水艦も非常に静粛化されています。問題は、静かかどうかだけではなく、何をどれだけ長く続けられるかです。

原子力潜水艦には、水中で高速航行を長時間維持できる強みがあります。発電量、持続力、機動力が、通常動力型潜水艦とは大きく異なるからです。

原潜の強さは、「静かかどうか」ではありません。撃った後にも離脱できる。深度を変え、位置を変え、再び別の海域に移動できる。追跡を受けても、速度と持続力によって戦場の位置関係を変えられる可能性があります。

だから、原子力潜水艦は「撃った後も作戦を継続できる潜水艦」だと言えます。

一方、ディーゼル機関と蓄電池に依存する通常動力型潜水艦には、燃料、蓄電、行動時間、補給上の制約があります。燃料補給のために母港に戻る必要もありますし、行動を継続するには充電や補給の問題を考えなければなりません。

この点でも、戦場での継続行動能力という意味では、原子力潜水艦の優位性は大きくなります。

平時と有事に求められる能力は異なる

日本の潜水艦は優秀です。これは否定する必要はありません。

日本近海での防衛、警戒監視、待ち伏せ任務において、通常動力型潜水艦は非常に重要な戦力です。

しかし、平時の静粛性と戦時の生残性は同じではありません。潜水艦は魚雷を撃った瞬間から、敵の対潜戦の対象になります。

自衛隊の通常動力型潜水艦も、性能は向上しています。防衛省は、そうりゅう型「おうりゅう」について、世界で初めてリチウムイオン蓄電池を搭載した通常動力型潜水艦だと説明しています。海上自衛隊も「おうりゅう」について、リチウムイオン電池を駆使し、大幅に向上した機動力を生かす潜水艦だと紹介しています。

公開情報では、「おうりゅう」の水中最大速力は約20ノットとされています。一方、米海軍は攻撃型原子力潜水艦について、バージニア級、シーウルフ級、ロサンゼルス級の速力をいずれも25ノット超と公表しています。

そして重要なのは、最大速力の数字そのものだけではありません。

通常動力型潜水艦の高速航行は、原子力潜水艦のように長時間維持できるものではありません。一方、米海軍は攻撃型原潜について、原子力による速度、持久力、機動性、ステルス性、搭載量が水中戦での優位を支えると説明しています。

だから、潜水艦の議論は「日本の潜水艦は静かで優秀だ」という評価にとどまってはいけないと思います。

撃った後に、生き残れるのか。

再び戦力として残れるのか。

その先まで含めて、有事を想定した話をしなければなりません。この論点も、皆さんに知っていただきたいと思います。

また、これで自衛隊関係者からの誹謗中傷が増えるかもしれません。それでも、時々このような話はしていきたいと思います。

自衛隊を本当に守るために必要なのは、問題を指摘する人を攻撃することではありません。
平時のうちに、装備の強みと限界を冷静に考えることです。

このテーマはYouTubeライブでも解説しています。記事とあわせてご覧ください。今後も安全保障や自衛隊の問題をわかりやすく発信していきますので、チャンネル登録、メンバー登録、高評価、コメントで応援いただけると励みになります。

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参考:海上自衛隊 潜水艦「そうりゅう」型 SS "SOURYU" Class

参考:攻撃型潜水艦 - SSN

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