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ホルムズ海峡再開の難航――Project Freedom中止が示した同盟調整の現実

米軍が発表したホルムズ海峡再開作戦「Project Freedom」は、世界経済の血流を守る作戦だった。しかし開始直後に一時停止された。背景には、サウジアラビアなど湾岸同盟国による基地使用・領空通過への難色がある。ホルムズ海峡を開くには、米軍の力だけでなく、基地、領空、補給、保険、商船の安全判断まで含めた調整が必要なのだ。
小笠原理恵 2026.05.08
誰でも

中東情勢と世界経済問題

中東情勢は、すでに地域紛争の枠を超えている。イランとの軍事衝突、ホルムズ海峡の封鎖、海上輸送への攻撃。これらは単なる軍事ニュースではなく、原油価格、ナフサ、化学製品、物流、電気代、食品価格にまでつながる世界経済の問題である。 今回、その構造を象徴する言葉が出てきた。 「Project Freedom」である。

米中央軍は、Project Freedomについて、ホルムズ海峡を通る商業船舶の航行の自由を回復するための作戦だと発表した。

米中央軍の公式発表では、ホルムズ海峡は世界の海上原油貿易の約4分の1が通過する重要な国際貿易回廊であり、燃料や肥料関連製品も大量に運ばれている。

この海峡を開くProject Freedomは、単なる軍事作戦ではない。世界の原油輸送を止めないための、海上交通維持作戦である。 しかし、この作戦はすぐに壁にぶつかった。

NBCニュースなどの報道によれば、トランプ大統領がProject Freedomを発表した後、サウジアラビアは米軍に対し、プリンス・スルタン空軍基地の使用やサウジ領空通過を認めない姿勢を示したとされる。

Guardianも、サウジ側が米軍による基地・領空使用を拒んだため、トランプ氏がProject Freedomを棚上げしたと報じている。

米軍は世界最強の軍事力を持つ。しかし、ホルムズ海峡のような chokepoint (チョークポイント)では、米軍だけで作戦を完結できない。艦船だけで商船を守ることはできないからだ。

イラン側のミサイル、ドローン、小型艇、機雷リスクに対処するには、上空からの監視、防空、空中給油、航空支援が必要になる。 そのためには、湾岸諸国の基地と領空が不可欠なのだ。

米軍では、こうした他国領土の使用許可をABO、つまり Access, Basing, Overflight と呼ぶ。アクセス、基地使用、領空通過である。戦闘機、空中給油機、支援機を動かすには、地域同盟国の協力が必要になる。サウジアラビア、クウェート、オマーン、カタール、ヨルダンといった国々の協力なしに、ホルムズ海峡周辺で継続的な防衛の傘を作ることは難しい。

***

Project Freedom一時停止の背景

つまりProject Freedomの一時停止は、「イランとの和平合意が近いから止めた」という喜ばしい話ではない。

むしろ、ホルムズ海峡再開作戦には、湾岸同盟国の政治判断が不可欠だ。

サウジアラビアが反発した理由も、単なる感情論ではない。 サウジは米国の主要同盟国である。しかし同時に、イランの報復対象になり得る国でもある。米軍がサウジの基地や領空を使ってホルムズ海峡再開作戦を進めれば、イラン側から見れば、サウジも作戦に加担したと受け取られかねない。そうなれば、サウジ国内の石油施設、港湾、空軍基地、タンカー、パイプラインが報復対象になる可能性がある。

湾岸諸国にとって、ホルムズ海峡を開けることは重要だ。しかし、米軍作戦に深く組み込まれ、自国が戦場化することは避けたい。少なくとも、湾岸諸国側から見れば、米国の発表は自国の事情への配慮を欠いたものに映ったようだ。同盟国がともに動いてくれるためには、その国の抱える現実がある。 同盟国だからといって、米国の作戦に無条件で協力するわけではないのだ。

自国の安全、自国の石油施設、自国の経済、自国の外交関係を計算する。とくにサウジアラビアは、イランとの関係、パキスタンによる仲介努力、中国との関係、国内の安定を同時に見ている。

***

米国の同盟国との調整不足が裏目に

だからこそ、トランプ氏がSNSでProject Freedomを発表し、湾岸側が不意を突かれたと報じられたことは重要だ。

軍事作戦には、事前調整、基地使用、領空通過、補給、外交的根回しがあって初めて動く。発表が先行し、同盟国との調整が追いつかなければ、作戦そのものが止まる。

米国防総省系の記事では、Project Freedomは防御的で、限定的で、一時的な作戦だと説明されていた。その目的は、イランの攻撃から無辜の商業船舶を守ることだ。

米軍は誘導ミサイル駆逐艦、100機以上の航空機、無人プラットフォーム、1万5000人規模の兵力で支援する計画だった。 だが、どれほど大規模な軍事力を準備しても、周辺国の基地と領空が使えなければ、作戦の実効性は大きく損なわれる。この段階で作戦の一時停止があった。

基地・領空使用制限解除で作戦再開となるか?

その後、サウジアラビアとクウェートが米軍の基地・領空使用制限を解除したとの報道も出ている。Reutersは、WSJ報道を引用する形で、サウジアラビアとクウェートが米軍の基地・領空アクセス制限を解除したと伝えている。ただし、Reuters自身はその報道を独自確認していないとも明記している。 つまり、事態はなお流動的である。

作戦はいったん停止され、湾岸側の協力停止が報じられ、その後には制限解除の報道も出た。だが、これは状況が完全に安定したことを意味しない。

ホルムズ海峡の再開が、軍事力だけでなく、湾岸同盟国の政治判断に強く依存していることをここで私たちは再認識する必要がある。

ここで日本が認識すべきなのは、世界最強の米軍でさえ、ホルムズ海峡のような chokepoint では、同盟国の領空、基地、補給、外交調整なしには十分に動けないという現実である。

だから、日本は外交上どう動くべきかを政府は熟考して、正しい有効な判断をしてほしい。

***

ホルムズ海峡と日本経済

ホルムズ海峡が不安定化すれば、日本にも直接影響が及ぶ。

日本は中東からの原油依存度が高い。ホルムズ海峡が止まれば、原油価格が上がるだけではない。

タンカー保険料が上がる。

船会社が危険海域を避ける。

輸送に時間がかかる。

ナフサなどの化学原料にも影響が出る。

プラスチック、包装材、合成繊維、医療用品、農業資材、食品物流、電気代にまで波及する。

つまり、「原油があるかどうか」ではない。産油国に原油があっても、船が通れなければ届かない。 船があっても、保険がつかなければ動けない。 保険がついても、機雷やミサイルのリスクが高ければ、商船会社は航行をためらう。

つまり供給とは、地下に資源があることではない。海上輸送、保険、護衛、港湾、精製、国内流通まで含めた一連のシステムなのだ。

原油代替え調達と同時に、外交努力を!

Project Freedomの中止と再調整は、その現実を可視化した。 これは「米国対イラン」の単純な構図ではない。 今回のProject Freedomをめぐる混乱は、「米軍が守ってくれるから大丈夫」という単純な話ではない。むしろ、米軍の作戦でさえ、地域同盟国の協力がなければ成立しないという、冷たい現実を示した。

中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保の対応状況 令和8年4月30日経済産業省

中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保の対応状況 令和8年4月30日経済産業省

そしてその現実は、日本にとっても他人事ではない。 高市政府はホルムズ海峡からの原油に頼らない代替調達を模索している。だが、この経産省の資料をみてほしい。パナマ運河を通る一番早いルートで、35日。喜望峰を回るルートなら55日の輸送日数がかかる。その分の船舶の燃料費と人件費が上乗せされる。探せば、別ルートからの燃料調達は可能だろうが、それが今まで通りの価格や条件での調達というわけにはいかない。

Project Freedomの一時停止が示したのは、ホルムズ海峡の危機が、軍事衝突だけでなく、世界経済全体の供給網を揺さぶる問題だということである。

今回の危機は、少なくともイランが核兵器を保有していない段階で起きている。それでもイランはホルムズ海峡を封鎖し、米軍でさえ、同盟国の基地・領空・外交判断に制約されながら対応している。もし将来、イランが核兵器を保有する事態になれば、米国や周辺国の対応はさらに難しくなる。さらに、イランの核保有は、周辺国にも核保有を検討させる連鎖を生みかねない。米国がイランの核武装を強く警戒するのには理由がある。

日本が今見るべきなのは、戦争そのものだけではない。 海峡、基地、領空、保険、船、原料、流通。 そのすべてがつながって初めて、私たちの生活は維持されている。 ホルムズ海峡の危機は、その当たり前に見えていた仕組みが、どれほど脆いものだったのかを突きつけている。そのうえで、日本経済、国民生活をまもるためにはどう動けばいいのかを考えなければならない。

ホルムズ海峡再開作戦「Project Freedom」は、なぜ難航したのか。米軍の力だけでは動かせない同盟国の基地・領空問題、さらに米議会の戦争制限議論整理した。私のライブ放送です。中東情勢は日本の原油、物流、電気代にも直結します。ぜひご覧ください
https://youtube.com/live/8GKdg0cHILQ

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