旧敵国条項は「死文化」で済ませてはならない―産経「新聞に喝!」で取り上げた中国による条項の政治利用と報道

11月1日付の産経新聞「新聞に喝!」に、「『旧敵国条項』削除実現に向け報道を」と題したコラムを寄稿しました。今回は、その内容を朝のライブでの解説も交えて紹介します。取り上げたのは、旧敵国条項の位置づけ、中国による政治利用、そして日本の新聞がこの問題をどう報じているかです。この記事は無料での全体公開とします。
小笠原理恵 2026.11.06
誰でも

上記のライブ配信でも解説しています。合わせてごらんください。

法的な効力と、政治利用は別の問題

国連憲章 国会答弁など出典は明記

国連憲章 国会答弁など出典は明記

国連憲章には、第二次世界大戦で日本などと戦った連合国側の立場から設けられた「旧敵国条項」が第53条と第107条に残っています。

第107条は、旧敵国に対し、第二次大戦の結果として責任を持つ政府が取った、または許可した行動を、国連憲章が無効にしたり妨げたりしないと定めています。当時の戦後処理を、国連憲章の下でも妨げずに進められるようにした規定です。

第53条は、地域的な取極や機関による強制行動には、原則として安全保障理事会の許可が必要と定めています。そのうえで、旧敵国への第107条に基づく措置などには、一定の条件の下で許可を不要とする例外を設けています。

日本政府は、過去に国連憲章削除をもとめ、総会決議にまでこぎつけました。しかし、まだ国連憲章から削除には至っていません。最近の日本国の立場は、こうした旧敵国条項は既に死文化しており、いかなる国も援用する余地はないと説明する形でした。それでも、政治的な利用は続いています。

外務省
@MofaJapan_jp
駐日中国大使館は、国連憲章のいわゆる「旧敵国条項」等に関する発信を再び行いました。
外務省@MofaJapan_jp
11月21日、駐日中国大使館は、国連憲章のいわゆる「旧敵国条項」に関する発信を行いました。
2026/09/07 20:21
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昨年11月、在日本中国大使館は「国連創設国(米英仏中ロの5カ国)は、安全保障理事会の許可を要することなく、直接軍事行動を取る権利を有する」とSNSに投稿。旧敵国条項を持ち出し、安保理の許可なく「直接軍事行動を取る権利を有する」という内容です。

「国連憲章に書いてある」と示されれば、その後の決議や国際社会の合意を知らない人には、今も有効な規定のように見えるでしょう。現在の国連ではこれは「死文化」扱いはされていますが、威圧や情報戦の材料にならないという確証はありません。

削除を求めた日本側が、問題なのか

11月1日付産経新聞の新聞に喝!というコラムに私は以下の記事を書きました。

今回のコラムは新聞に喝!なので、今回は朝日新聞の報道への疑問を呈しました。
朝日は9月28日付朝刊で、高市首相の削除要求について、中国による日本批判に利用される恐れや、政府内の「取り上げる必要はなかった」とする声を伝えました。
しかし、中国側は、それ以前から旧敵国条項を持ち出しています。しかも、旧敵国条項を持ち出し、安保理の許可なく「直接軍事行動を取る権利を有する」とのSNSへの投降。
全世界が見守る中で、大使館がそう考えているという主張です。政治利用されている条項の削除を求めた日本側に、問題があるかのように日本の新聞がいう。朝日新聞が旧敵国である日本に対しては、安保理の許可なく「直接軍事行動を取る権利を有する」という中国の意見を支持しているのでなければいいなと思います

「削除する」合意を、国連憲章削除ー実現につなげる

1995年の国連総会決議では、旧敵国条項が既に死文化しているとの認識が示されました。2005年の国連首脳会合の成果文書でも、敵国への言及を削除する決意が示されています。中国・ロシアも、これらを支持しています。
それなのに、条文は残ったままです。

日本国憲法改憲もその手続きの難易度の高さが大きな問題となっています。国連憲章も同じで改正手続きが難しい。ここがこの実現が進まない要因です。

削除には国連憲章の改正が必要です。総会構成国の3分の2の賛成に加え、全常任理事国を含む加盟国の3分の2の批准が必要となります。中国やロシアの批准も欠かせず、容易ではありません。

高市早苗総理が国連演説内で敵国条項削除を求めました。



だからこそ、政府が削除を求めたという報道だけで終わらせず、どの国に働きかけ、どのように合意を実行へ移すのか。その外交を継続して追ってほしいと思います。

同時に、81年を経た国連憲章も見直されなければなりません。「旧敵国条項」について、2005年には、全加盟国首脳の決意として、国連憲章から「敵国」への言及を削除するとの国連総会決議が採択されています。この決議に従い、同条項は早急に削除されるべきです。70年間に渡り国連の取組に大きく貢献してきた日本の誇りと名誉にかけて、強く申し上げておきます。

歴史を使った対日圧力にも目を向けてほしい

コラムでは、9月の米中首脳会談の成果文書が、両国の第二次大戦中の協力に触れたことも取り上げました。米中首脳会談の席で、同盟軍、連合軍の枠組みを強調することと、この敵国条項を取り上げること。両者は同時に日本を国際社会から孤立させるための試みのようにも感じます。このようなことがあれば、同盟関係を損なわないように即時に対処が必要だとおもいます。
前大戦で米国と同盟関係にあった国は、当時の中国政府は中華民国であり、現在の中華人民共和国ではありません。

The two leaders recalled that United States and China were allies in World War II and fought side by side to win the war.

米中首脳会談の成果文書に記載されている国家の名前は「China」。中華人民共和国の正式英文名はPeople’s Republic of China(中華人民共和国)です。(略称は PRC。)少なくともそれではなく、「China」という表記を選んだ。ここは大事なポイントです。この表記であれば、前大戦で同盟国であった国の正式名は Republic of China(中華民国ー現在台湾がこの正式名を引き継いでいます。)です。(略称は ROC。)ではないものの現在のPRCとも書いてない。ここに微妙な線引きが存在します。

戦勝国と敗戦国という線引きを現在の外交に持ち込み、日本への圧力に利用しようとしていないか。同盟国であるアメリカはどういう意味でその第二次世界大戦中の協力国という文書を成果文書に入れたのか。報道を見るときには、その視点も必要だと考えています。

外務省
@MofaJapan_jp
11月21日、駐日中国大使館は、国連憲章のいわゆる「旧敵国条項」に関する発信を行いました。
2025/11/23 17:36
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旧敵国条項を削除すれば、対日圧力がすべてなくなるわけではありません。それでも、国連憲章の文言を利用した宣伝の材料を、一つ取り除く意味はあります。
「死文化しているから大丈夫」で終わらせず、実際に政治利用されている現実を見る。今回の「新聞に喝!」で伝えたかったのは、その必要性です。

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