中国由来の品々をすべてゴミ箱に!米中首脳会談の裏側――「ゼロトラスト」外交の時代
帰国直前の徹底した中国からの品の「破棄作業」
報道によれば、トランプ大統領の訪中団は、中国滞在中、米大統領訪中団(トランプ一行)は、サイバースパイ対策として徹底した対応を取ったと複数メディアで報じられた。
• 通常使用している個人デバイスは持ち込まず、機内や自宅などに残し残し、中国国内では「使い捨て(burner phones)」やクリーン端末のみ使用。
• 中国側から渡された贈呈品・記者証・ピンバッジ・burner phonesなどの全品を、帰国前のエアフォースワン搭乗直前にゴミ箱に捨てる(機内に中国製のものは一切持ち込まない)。
このエピソードは、White House press pool記者らの目撃談に基づき、Fox News、NDTV、Free Press Journal、Times of Indiaなど複数の海外メディアで取り上げられ、日本国内のX(Twitter)でも大きく拡散されているところ。

Nothing of Chinese origin got on the plane.
The delegation had already left
通常使用している端末はエアフォースワンに残され、必要な通信には、情報を最小限しか入れていないクリーン端末や使い捨て端末が用意された。個人端末はFaraday bag、つまり電波遮断袋に入れて保管されたとも報じられている。
中国側から渡された物品をすべて廃棄。
さらに注目されたのは、訪中を終えた一行が、搭乗前に中国側から渡された物品をエアフォースワンに乗る直前、すべてゴミ箱に破棄した。
徹底して、中国からの物品は機内に持ち込まない。記者証、認証バッジ、ピンバッジ、現地用の電話、贈呈品などが回収され、廃棄された。
中国から渡されたものは、たとえ記念品であっても、通信・位置情報・盗聴・追跡のリスクを持つものとして扱う。そういう前提に立ったリスク回避行動だ。
徹底的に実施する姿勢は潔い。
米国側が感情的になって破棄しているわけではない。国家レベルの高リスク環境への訪問に対して、極めて実務的なリスク管理だ。
相手国の気持ちを考えて、そこまで徹底的できない日本人的な感覚とは明らかに違う。情緒的な気おくれでリスク管理を徹底できない日本はこれを見習ってほしい。
中国国内の通信環境では、プライバシー保護に懸念がある。米政府側の警戒は米国内でも徹底されている。だからこそ、訪中時に同国から渡されたものは持ち込まない、つながない、残さない、持ち帰らない、という運用になる。
サイバーセキュリティ 「ゼロトラスト」
この考え方は、サイバーセキュリティでいう「ゼロトラスト」に近い。ゼロトラストとは、「内部だから安全」「自分の端末だから安全」「公式に渡されたものだから安全」とは考えず、すべてのアクセス、端末、通信を疑い、必要な範囲だけを検証して使う発想である。NISTはゼロトラストについて、従来の境界型防御から、ユーザー・資産・リソースを中心に守る考え方へ移るものと説明している。
NISTとは、National Institute of Standards and Technology(米国国立標準技術研究所)の略称 米国商務省(U.S. Department of Commerce)傘下の非規制機関。情報セキュリティでは、世界的に非常に影響力の大きい存在。米国連邦政府機関ではNISTの基準が広く準拠・参照され、民間企業にも大きな影響を与えている。
中国の高度なサイバー監視・ハッキングリスクを警戒した「デジタル・ロックダウン」措置の一環だ。過去にも米政府関係者や五輪選手団などで似た対策はあったが、今回は大統領訪中。米政府・Secret Service・White House staffが実施した「Digital Lockdown(デジタル封鎖)」と呼ばれる極めて厳格なプロトコルが発動した。
中国を「世界で最も攻撃的なサイバー環境の一つ」と位置づけ、スパイウェア・監視・データ抽出のリスクを最大限に想定した対応策だった。
安全保障上、信頼を前提にしない。
今回の訪中団の対応は、その国家外交版だったと言える。通常端末を持ち込まない。使う端末には最小限の機能しか入れない。クラウド同期や個人アカウントを避ける。通信は管理された経路に限定する。相手国から渡された物品は持ち帰らない。つまり、相手の好意や儀礼を否定するのではなく、「安全保障上、信頼を前提にしない」という態度を徹底したのである。
これは、外交儀礼としては冷たく見えるかもしれない。しかし、現代の外交は、笑顔で握手をしながら、同時にサイバー空間では情報を抜かれるかもしれない時代に入っている。首脳会談は、会議室の中だけで行われるものではない。ホテルのWi-Fi、充電器、記者証、ピンバッジ、スマートフォン、ノートパソコン、そのすべてが情報戦の接点となる。
日本のサイバーセキュリティは大丈夫か?
日本にとっても、これは他人事ではない。政治家、官僚、企業経営者、研究者、メディア関係者が海外に渡航する際、スマートフォン一つに膨大な個人情報、業務情報、人脈、未公開資料、位置情報が入っている。LINE、メール、クラウド、写真、連絡先、予定表。これらは、本人が意識している以上に価値のある情報だ。
日本では、いまだに「自分には盗まれるような情報はない」と考える人も多い。しかし、情報機関や競合国が欲しいのは、必ずしも国家機密そのものではない。誰と会っているのか。どの団体や組織とつながっているのか。どんな関心を持っているのか。どの分野に弱点があるのか。そうした断片情報が積み重なることで、人物像や組織構造が見える。
今回の米国訪中団の行動は、過剰反応ではなく、現代の標準的な危機管理の一つとして見るべきだろう。特に中国のような高リスク環境では、「便利だから使う」「記念だから持ち帰る」「相手が公式に渡したから大丈夫」という感覚は通用しない。
米中首脳会談では、経済、台湾、半導体、AI、貿易が大きな議題となった。しかし、同時に米国側は、会談そのものだけでなく、「情報をどう守るか」にも神経を使っていた。何を持ち込むのか、どの通信を使うのか、中国側から渡された物品を持ち帰るのか。こうした一つ一つの判断に、米国が中国をどれほど警戒しているかが表れている。
現代の外交では、握手の瞬間にも、情報戦は始まっている。今回の訪中団が示したのは、「友好」と「信頼」は同じではない、という冷徹な現実である。友好儀礼は行う。お互いをほめたたえあう。しかし、通信も端末も記念品も信頼しない。これが、米中対立時代の新しい外交作法なのだと思う。
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